一時のシェルター対策が住宅施策を混乱に陥れる恐れ

 離職退去者に対する住宅提供ということで、公営住宅を提供する動きが年末から全国の自治体で始められている。派遣切りにより寮を追い出された離職退去者は若中年単身者が多いということで、本来、世帯向けと単身高齢者等しか入居対象としていなかった公営住宅に対して、国土交通省が目的外使用許可を包括的に与えるという形で実施されている。

 募集を始めてみると、名古屋市で意外に応募が少ないなど、地域的な偏在はあったものの、どこも提供できる住宅数を上回った応募があったようだ。しかし想定と異なるのは、必ずしも若中年単身者ばかりではなく、本来入居資格を有する家族世帯も多かったことだ。本来であれば、一般の入居募集に応募し、10倍以上の高い倍率による抽選を経て入居が決まるはずの世帯が、離職を免罪符に先着順や数倍程度の抽選で入居をしている。

 もちろん、今回入居したところで、半年から1年程度の期限付き入居だが、期限が来た際に円滑に退去してもらえるかどうか、公営住宅の管理担当者は戦々恐々としているはずだ。

 今回の離職退去者に対する支援は、解雇に伴い、派遣企業から提供または斡旋されていた住宅や寮から強制的に退去を迫られ、野宿もやむなしという状況に追い込まれた人たちに、緊急避難的に雨露をしのぐ場を提供するというのが本来の趣旨だった。いわゆるシェルター対策だ。シェルターであれば、派遣村に集まった人にテントを提供したり、厚労省が講堂を開放したように、一時的な施設でよかったはずだ。

 一方で、住宅が不足していたかと言えば、けっしてそんなことはなく、彼らが退去するまで住んでいた住宅は今も空き家状態のまま残っている。本来の入居資格者に対して公平な仕組みで提供されるはずだった公営住宅の空き家が、シェルター代わりに用いられ、その結果、本来の入居資格者はこれまで以上の高倍率を余儀なくされる。

 先日、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の方に、独立法人化後の業務内容等をお聞きする機会があった。住宅の直接融資からフラット35に転換し、それが現在の主な事業だが、最近は賃貸住宅建設融資にも積極的に乗り出しているという。しかし派遣切りが横行して以降、事業者の姿勢が慎重になり、契約数も伸び悩んでいるという。今までは派遣企業の斡旋や借り上げで埋まっていた住宅も、今後は空き家がめだつようになるかもしれない。

 これは住宅施策の観点からも非常にいびつな状態である。

 結局、この状況は、シェルター対策と住宅対策が混同されたことから始まったと言える。これを元に戻すためには、離職退去者に提供する住宅は取り壊し予定の空き住居を当て、ホームレス収容施設と同様、1住戸に3~4人を収容する賃料無料の期限付き収容施設とすることだ。こうして当面のシェルターを確保しつつ、雇用対策を講じることが本来講ずべき対策ではなかったか。

 今までも公営住宅はその時の社会情勢に応じて仕組みを改変してきたが、今回の場当たり的な対応は、住宅施策全体の再構築を要請する事態になりかねない。そんな危惧を抱く。