若者が希望を持てる社会づくり

 「少子社会日本」や「希望格差社会」などを著し、報道ステーションなどのTVでも活躍する社会学者の山田昌弘氏の講演を聴いてきた。「若者が希望を持てる社会づくり」というタイトル。

 「希望」とは精神的なものであり、お金の多寡に左右されるものではない。希望を持てる社会は「努力が報われることが期待できる社会」であるとし、(1)努力しなくても報われる既得権者の存在と、(2)努力しても報われない人の存在が社会の停滞と荒廃を募らせると言う。そしてここ10年の経済改革で前者の打破は目指された(結局生き残っている)ものの、後者については放置され、いくら働いても仕事と生活が評価されない人々が増えていると指摘する。今さら言うまでもない非正規雇用者やワーキングプアのことである。

 この要因は、工業経済からポスト工業社会(ニューエコノミー)への構造転換にある。ニューエコノミーの時代、豊かな社会ではほとんどのモノが充足され、生活必需品の「安いもの」か+αのある「欲しいもの」しか売れなくなる。そうすると、+αの欲求に応えられる創造的作業か、パソコンやロボットの補助としての定型作業労働しかなくなってくる。仕事の二極化だ。そして後者の仕事、すなわち検品、仕分け、データ打ち込み、清掃、配膳、運搬などのスキルアップが不要でマニュアルどおりに働けばよい仕事に対する非正規化が起きた。

 これは世界的な流れであるが、日本的特徴として、(1)短期間に浸透したこと、(2)欧米では移民等が非正規雇用についたが、日本では若者にツケが回ったこと、(3)親が若者の生活保障をするパラサイト社会であった、の3点を提示。特に3点目が政府の対応を遅らせ問題の顕在を隠してしまったと指摘する。

 現在においても基本的にツケを先送りしている結果、(1)将来に不安を抱える若者が結婚しない未婚化・少子化の進行、(2)パラサイト社会がもたなくなる社会の底抜け、(3)格差の固定化、(4)希望を持てない人の行き場としてのバーチャル領域への逃避やひきこもり・ニート化、自己破滅型犯罪の増大を生み、さらに今後は、パラサイトしていた老親の死亡に伴い、(5)中高年パラサイト・フリーターの大量発生が危惧されると指摘する。

 これらの問題に対して、格差の出現を止める政策から生じた格差を是正する政策を積極的に実施していくことが不可欠だと主張。リスク社会に適合した社会保障システムの形成や旧来の間接的な公共事業ではなく直接雇用する形の公共事業(福祉サービスなど?)等を提案した。

 また、希望格差の縮小に向けて「希望のセーフティネット」という言葉をあげられた。これは、非正規でも希望が持てる環境づくりが必要という意味で、具体的な解説はあまりなかったが、例えばアメリカでは教会が一定の役割を果たしているといった話があり、格差社会を前提にした新たな人生観を提唱するものと言える。もっともこれには階層社会化を固定化するものとして批判もあるだろうが、社会の安寧化・安心化に向けてはあり得る方策と言うべきか。

 もうひとつ、単純労働の従事者として、誰を想定するべきか。最近、経団連が移民の導入促進を提言しているが、山田氏は高齢者の活用を提案された。さて、この部分をどう解決するかで日本の将来も大きく変わると思われるがどうか。