ヨーロッパの都市はなぜ美しいのか

 筆者は、イタリア・パリで長く生活し、現在は大阪芸術大学の教授を務める「環境・建築芸術学」の先生である。「ヨーロッパの都市はなぜ美しいのか」の答えは、あとがきであっさりと書いている。「それは市民の美的なものへの関心が高いからである(P296)」。そのことの是非は置いておいても、口絵の4枚のカラー写真だけでは惜しいと思うほど、イタリアの各都市や広場、噴水、さらにはパリのパッサージュやアール・ヌーヴォーアール・デコの都市装飾の数々を豊富な写真とともに紹介してくれる。  これらの作品紹介に加え、環境デザイナー、エットレ・ソットサスや15世紀の寄木画家、フラ・ジョヴァンニ・ダ・ヴェローナの紹介など、筆者の専門領域からの芸術家の紹介も興味深い。建築物とその装飾・広場・噴水等が形づくる造形を筆者は環境芸術と呼ぶ。ヨーロッパ都市の環境芸術に対する愛着と愛情を強く感じる。読んでいて心暖かくなる1冊である。
●秩序の美、比例の美が基底にあって、それを打ち破って自由な形に崩している。・・・この無意識的というか、自然な感性のほとばしりをイタリア語でスポンタネイタという。・・・秩序があってスポンターネオ感覚が美をつくり出しているのであり、それがあって秩序が生き生きとしてくるのである。・・・この二つの絶妙なバランスが人間的なやわらかな地中海地域の造形をつくっている。(P33) ●都市住民自身が都市のデザイナーなのである。そして文化はそのような一般市民によって支えられているのである。都市の環境芸術は、市民全体の造形感覚の水準をよく反映しているといえる。(P44) ●ル・コルビュジエの「サヴォア邸」のゆったりとしたモダニズムの建築は富裕層のものであり、下町団地のアール・デコの装飾性は貧者のデザインなのかもしれないという思いになる。・・・アール・デコとは市民の様式であった。(P230)