地域の力

 副題に「食・農・まちづくり」とあるように、国内の食や農を中心とする各地域の自立的なまちづくりを紹介している。全部で8章。第1章は島根県雲南市の酪農を中心とする地域自給のまちづくり。第2章は相生市四日市などの商店街の取り組み。第3章は徳島県上勝町の「いろどり」の活動。第4章は愛媛県今治市の学校給食を核とした食育と地産地消の取り組み。第5章では北海道における地域に根ざした畜産と有機農業推進行政。第6章では高知県檮原町等の林業における取り組み。第7章は富山県富山市のLRTと高岡市の三セク。そして第8章では東京都練馬区の体験農園の事例等を紹介している。
 高齢者がつまものの栽培採取を行い事業として成立させている「いろどり」の取り組みや富山市のLRTなどは最近有名なので、他の雑誌等でも読んで知っていたが、著者の専門分野である食と農の様々な取り組みもどれも興味深く面白い。特に第4章の学校給食の取り組みは、本来の食育のあり方を問うものであり、最近の食育基本計画等を眺めて「なんだこれ?」と感じていた私としては、「こういう意味の食育であればわかる!」と納得のいくものであった。
 この本は、地域活性化のための事例集ではなく、自給率が最低であり、今になって食の安全に色めき立っている日本にとって、食とは何か、農とは何かと問う啓発の書と言える。私も家庭菜園を始めて数年になるが、改めて勇気づけられた思いがした。これからもがんばろうっと! 肩を無理しない程度に、ね。

  • 「商店街はまちに根を張っている植物で、大型店やチェーン店は獲物を求めて生きる動物です。動物が来て、食い荒らし、植物を枯らして去っていけば、まちは荒廃します。でも、植物が自分の役割をきちんと果たし、林や森をつくっていけば、まちは残れるでしょう。(P43)
  • 「地産地消とは、地域の自然のなかで、いのちの循環をつくり出すもの」であり、農業は地域の風土のなかで育まれてきたものだから「地産地消の食は文化」なのである。(P74)
  • 本来の食育とは、このように食と農と環境と平和を視野に入れたものであるはずだ。(P91)
  • 多様な生きものが共存する牧場で、人間が食べられない国産のエサを食べて健康に育つ牛や豚。その美味しい肉を適量、食べる。それが日本人にとっての肉食のあり方ではないか。(P108)
  • いまこそ、本気で自動車走行量の削減をめざす政策を取り入れるべきではないだろうか。(P172)