アメリカ西海岸諸都市・デザインガイドラインとデザインレビューボード

 昨年9月にアメリカ西海岸の諸都市、サンフランシスコ、シアトル、ポートランド等を調査旅行されてきた先生からその概要をお聞きする機会があった。まずはスライドに映る街並みや住宅の美しさに目を奪われたが、その美しさもさることながら、先生が調査されてきたデザインガイドラインとデザインレビューボードの話が興味深かった。
 基本的にはシアトルの話として聞いたが、ポートランドなどでも同様らしい。アメリカといえばゾーニング条例による詳細な土地利用・形態規制があるが、例えばシアトルでは市内を7地区に分けてデザインガイドラインが定められており、ゾーニング規制には適合しなくてもデザインガイドラインに即して適当と認められる建築物は建築が許可される仕組みとなっている。この適用を受けたい施設や一定の条件に該当する施設は地区毎に設置されたデザインレビューボード(委員会)の協議でデザインガイドラインとの適合を認めてもらう必要がある。市役所の会議室で夕方に開催された委員会には、コミュニティ代表、デザイン専門家、開発事業者代表、地域住民代表、地域経済界代表と建築家の6名の委員が参加し、事業者からのプレゼンテーション、質疑応答と審議が、地域住民等が参加する一般公開の中で行なわれた。こうした委員会は月2回開催され、年間200件ほどの審議を行う。1件につき概ね3~4回のレビューが行われるとのこと。30~50人ほどもいると思われる傍聴者からの発言はなかったとのことだが、地域住民の前で公開審議をすることは、地域への関心や帰属意識の高揚、住民参加を担保する点で大いに意味がある。
 その他にも、シアトル市のアーバンビレッジ戦略やポートランド都市圏のTODによるオレンコステーションの開発などの話も聞かせてもらったが、いずれもゾーニングで厳しく規制する一方で、デザインガイドラインによる柔軟な対応が図られており、その合理性・柔軟性に感心した。
 最後にこの違いは何故だろう、という話になり、日本の急速な都市化とそのタイミングの問題(成長期に十分な都市基盤整備を行うことができなかった)やアメリカが依然人口増加を続けていること、また日本の細分化された土地利用の問題(権利変換に莫大な費用)などの意見が出されたが、そもそも意見調整に対する意識の違いというのもあるかもしれない、と思った。すなわち、人種が多様なアメリカでは利害調整の難しさとルール(主張と譲歩)が共通意識として培われているのに対して、お上の国・日本では正しいことは一つという感覚があり、是か非かの議論になりやすい土壌があるのではないか。それが数値だけで規定する法規制や判断を要しない基準化を推し進めているような気がする。都市計画に柔軟な仕組みというのは本当に必要だと思う。もちろん開発側・保全側双方が公正な立場に立って。