空き家の手帖

 先日、京都空き家セミナーを聞いた際に本書を購入した。わずか91ページで、活字や行間も大きいQ&Aのページが中心で、その間に5つのコラムと空き家活用事例が6点掲載されている。最初の方のページなどは、見開きで「手遅れになる前に」「活用しましょう。」と書かれているだけで、あとは白地。もともと高齢者が多い地域へ無料配布することを目的に作成した本なので、読み易い。30分もいらずに読めてしまう。
 でも対話形式で書かれたQ&Aは、確かにこんな会話がありそうだと思わせる。チラシではなく本にしたのは、すぐに捨てられないようにするための方策だとセミナーで言っていたが、相続の問題や片付けの方法、民間業者へ依頼した場合の問題や仏壇の処分法など、実務的な心配事までフォローしており、この内容なら確かに捨てにくい。
 京都という空き家需要は高い地域ならではの活動ではあるが、住民が中心となって楽しく活動して様子が伺えて、楽しい。本の販売で得た利益はまちづくり委員会の活動経費となるとのこと。私も少しでも応援できただろうか。

空き家の手帖:放っておかないための考え方・使い方

空き家の手帖:放っておかないための考え方・使い方

  • 作者: 六原まちづくり委員会,ぽむ企画
  • 出版社/メーカー: 学芸出版社
  • 発売日: 2016/09/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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○この空き家を活用するきっかけは六原の地域住民が手がける「空き家の片付け支援プロジェクト」だった。空き家の解消を条件に片付けを支援するという取り組みだ。片付け支援プロジェクト当日は地域の消防団員をはじめとする18人が集まり、実働3時間で片付けを終えた。/次に問題となったのが、この建物に風呂がなかったことだった。・・・そこで検討されたのが、まず安心して家を貸せる入居者を探し、家賃の前払いという形で入居者にリフォーム資金の負担をお願いする手法だった。(P61)
〇法律では、「問題のある空き家」への対策が中心となっています。とはいえ重要なのは、空き家を「問題のある空き家」にさせないことです。・・・京都市の場合、法律に先んじて2013年12月に「京都市空き家の活用、適正管理等に関する条例」を制定しました。そこでは・・・地域における空き家の活用を重視している点が特徴です。(P64)

建築士制度の矛盾

 新年早々、建築士のあり方について議論をしてしまった。
 昨今、ゼネコンでは建築系学科を卒業した社員に、一級建築士よりも一級建築施工管理技士を取得するよう勧めることが多い。一定規模以上の工事現場には監理技術者を配置する必要があるが、監理技術者の資格取得には一級建築士又は一級建築施工管理技士であることなどが条件となっている。では、一級建築士になると何ができるかと言えば設計業務であり、設計部門のある建設会社では当然、一級建築士の資格は有用だが、施工専門の建設会社では一級建築施工管理技士を持っていれば足りる。そこで上記のような状況となる
 こうした中、建築士会の役員の方から、「一定の大規模な建築工事については、一級建築士の資格のある監理技術者を配置すべきではないか」という意見があった。その方が理由に挙げたのは、(1)施工者からのVE提案にあたり、施工に特化しない建築士の役割が重要、(2)工事監理(建築士の専管業務)にあたり、工事の品質管理は実質的に施工者が担っている実態から工事監理者と施工者の建築士が二重で検証をする意義が大きい、の2点だが、これは工事監理において建築士が実質、その役割を十分担っていないことの裏返しのような気がする。
 ただ、この方がこうしたことを提案する意味はよくわかる。「一級建築士は足の裏の米粒。取らないと気持ち悪いが、取っても食えない」とは昔からよく言われるが、それでも以前は、設計事務所に勤務する者はもちろんのこと、公務員や建設会社の社員なども一級建築士の資格取得を目指した。しかし、姉歯事件があって建築士法が改正されて以降は受験資格の審査が厳格化され、設計業務に特化した資格になっている。
 一方で、既に一級建築士の資格を持っている公務員や建設会社の幹部などは、一級建築士は建築関係のオールマイティな最上位の資格だという意識があり、また一般的にも、一級建築士は一級建築施工管理技士などよりも高度な資格だというブランドイメージがある。建築士会では、一般の建築士の上位資格として、専攻建築士の制度を創設しているが、団体による認定・登録資格であって、国家資格とはなっていない。また、建築設計の中の特定の分野の専門的知識等を有する建築士として、構造設計一級建築士と設備設計一級建築士がある。こちらは国家資格となっている。
 要するに、建築士は制度的には姉歯事件以降の建築士法改正により、設計業務により特化した資格になっているが、それ以前に建築士資格を取得した者や社会一般にとっては、以前のブランドイメージが抜け切らず、混乱しているということか。設計業務を行う建築士は定期講習の受講が義務付けられているが、日常的に説教業務を行わない公務員などは定期講習を受講していないことが多い。そこで、こうした建築士は定期講習未受講建築士としてきちんと差別することで、建築士のブランドイメージを変えていく必要があるのかもしれない。
 建築士が設計業務に特化した資格だとして、その場合に問題になるのが、建築基準適合判定資格である。一級建築士が設計したものを審査するという業務のためか、現在、この資格は一級建築士の資格を持っていることが条件となっている。そして建築士の資格取得のためには製図試験に合格することが必須である(それもなぜかいまだに手書き)。建築基準適合判定の業務は他人が書いた図面を読み取り審査するので、自ら図面を書く必要は全くないが、その試験に合格しなければ受験資格も得られないというので苦労している公務員や民間建築確認機関の職員は多い。
 ここはやはり、建築基準適合判定士という資格を建築士資格とは別のものとして設置すべきだろう。設計業務を行う「設計建築士(・構造設計建築士、設備設計建築士)」、審査業務を行う「建築基準適合判定士」、施工管理を行う「建築施工管理技士」と資格を明確に分けることで見通しがだいぶよくなる(この際、建築士も名称を「設計建築士」に変更すべき)。
 それでは従来の、設計業務を行っていない建築士はどうするのか。これは試験などやめて、建築学科を卒業したものは全員、「建築士」にしてしまえばいいと思うのだが、さすがそれは暴論だろうか。建築士とは建築学士(修士・博士)の略だと思えば違和感はないと思うのだが、どうだろう。

老いる家 崩れる街

 人口減少に伴い、住宅や住宅地が余ってくる、空地や空き家が多く発生してくるということは、社会的に、そして住宅施策においても最重要な課題となっている。しかし本書はこの問題を都市計画の課題として考察し、方策を考えようとするものである。「はじめに」で以下のように記述されている。

○住宅過剰社会だからといって、新築住宅をつくること、購入すること自体が悪いわけではありません。・・・問題なのは、新築住宅が、居住地としての基盤が十分に整っていないような区域でも、いまだに野放図につくられ続けられ、居住地の拡大が止まらないことです。(P9)

 以下、各地域における住宅供給の実態と問題について記述される。最初は東京湾岸エリアにおける超高層マンションの乱立とそれを助長する再開発等促進区等による規制緩和について。続いて、都市計画法第34条第11項に基づく条例によって引き起こされた市街化調整区域での戸建て住宅の乱立。さらにそれがサブリース会社に利用されて調整区域に入居者の少ない賃貸アパートが建設された「羽生ショック」。
 第2章では、空き家問題や限界マンション、さらにインフラの老朽化について。そして第3章「住宅の立地を誘導できない都市計画・住宅政策」では、災害の恐れがある区域の立地規制が十分行われていないことや市町村間の人口奪い合い競争により、特に非線引き地域で住宅の乱立がみられること、さらに、長期優良住宅やサ高住などの住宅施策に立地規定がないため、災害の恐れがある区域や不便な土地に建設されていることなどが指摘される。
 これらへの対応として、第4章では7つの方策が語られるが、これらに特に異存はない。それ以上に興味を惹いたのは、立地適正化計画制度の活用だ。この法律が施行されて2年余りが経過した。現状は国の補助制度に引き摺られる形で、全国的に、形ばかりの計画策定に向けた検討が進められていると思うが、居住誘導区域外の届出制度をいかに運用するかがこの制度の肝だということを認識した。
 人口減少、住宅の過剰供給、空き家の増加、住宅や都市インフラの老朽化など、今後予想される課題は枚挙に暇がないほどだ。しかしこれらに適切に対応するにはもう既にかなり時機を失した感がある。筆者には失礼だが、都市計画が数十年先を見通した都市像を描くことができない状況では、旧来の都市計画制度はもう大して役に立たないのかもしれない。次善の策を考える時期に来ているような気がする。

○人口増加を目標に掲げて、本来、市街化を抑制すべき区域である市街化調整区域の農地エリアで都市計画の規制緩和を行っても、市内や圏域で人口を奪い合っていただけで、転入者の増加をもたらす効果は限定的だった・・・それにもかかわらず、農地をつぶして、無秩序に宅地化しながら、低密にまちが広がり続け・・・行政サービスの効率の悪化や行政コストの増加といった悪循環を引き起こす状況は、まさに「焼畑的都市計画」であると言えます。(P77)
○今後、居住者も住宅そのものも老いが深刻化してゆくにもかかわらず、老いた住宅を引き継ぐ人口自体が減っていくことから、空き家の解体・除却への税金投入など、社会的コストが膨らみ続けることが懸念されます。/そのため、住宅の終末期、つまり解体・除却費用を確実に捻出できる新たな仕組みを早急に考えていかなければなりませんが、その必要性は認識されているものの、残念ながら、具体的な動きにまでは至っていないのが現状なのです。(P119)
○これまで、長期優良住宅のサ高住も、建てられる立地は関係なく、要件を満たせば、一律的に手厚い公的支援が受けられる仕組みとなっていました。/しかし、災害の危険性が想定される立地や、自家用車に頼らないと暮らせないような立地に新築される長期優良住宅やサ高住については、少なくとも、税制上の優遇措置や建設費の助成を行わないようにするなど、立地によるメリハリをつけるべきなのです。(P183)
○立地適正化計画では、居住誘導区域外で一定規模以上の新たな住宅を建てる、つまり、デベロッパーなどによる新たな宅地開発に対して、事前届出が必要になるということなのです。もし、届け出された計画内容が、立地適正化計画に照らして好ましい行為ではない場合には、市町村から是正等の勧告が行われることになります。・・・このように、立地適正化計画制度は、新たな宅地開発を禁止するという規制的な手法ではなく、事前届出・勧告という仕組みを導入することで、長い時間をかけて、居住誘導区域に新築住宅の立地を誘導することを目指した制度となっています。(P192)