商店街の復権

 広井良典が商店街の本?というので、どんな内容かと思ったら、広井自身は総論にあたる第1章のみで、第2章以降はさまざまな経歴の筆者が分担して書いていた。執筆者には、経産省の役人もいれば、日本商工会議所職員、京都府商店街創生センター職員、東京R不動産職員、そして企業研究所の研究者に大学教授など、実にさまざま。
 そう言えば、広井はこれまでの本でも、西欧諸国のイキイキとした商店街の紹介をしていたなあと思い出す。第1章の内容も、これまでどこかで読んできたような内容だ。それで興味深いのは第2章以降だが、やはり自らの活動を紹介している文章が面白い。東京R不動産による荒川区西尾久の試み。京都府商店街創生センターの商店街組合員に寄り添った活動、帯広市中心市街地活性化の取組など。それと、関西大学の宇都宮教授による交通まちづくりに関する論文も興味深かった。
 案外、商店街に拘らず、快適で暮らしやすい商取引の場を考えると、商店街のような場所になるのかもしれない。

○「多極集中」とは…国土の中に「極」となる都市やまち・むらは多く存在する一方、そうした極となる場所は…できる限り「集約的」で歩行者中心の「コミュニティ空間」であることを重視した姿になっているというものだ。…現在のような人口減少時代にあっては、「多極分散」という姿はかえって“低密度”すぎる、拡散的な…地域を招いてしまうことになる。そうであるがゆえに「多極集中」、つまり多極的でありつつ各々の極は集約的であるような都市・地域像が求められる(P056)
○「産業(製造業)→雇用→都市・地域の発展」という、いわば工業化社会の都市・地域パラダイムから脱却できていないことが、シャッター通り化を含め、日本各地の都市の空洞化や衰退の根本的な原因となっているのではないか。…現在のようなポスト工業化社会あるいは第三次産業が雇用の過半を占める時代においては、“産業・雇用のある場所に人が集まる”という工業化社会のモデルとは逆に、“人が集まる場所に雇用・産業が生まれる”という反対向きのベクトルが生成するのである。(P075)
○つながる場所があることが地域の価値になる…例えば「あの人がいるまちだから住みたい」「あんな人たちとつながれる地域だから住みたい」「あのスペースで過ごせるから住みたい」というように、人との関係や愛着といった、数値化できない要素で地域が選ばれるようになるかもしれない。(P160)
中心市街との空洞化は、地元住民の多くが自家用車を利用して郊外で暮らし、商業機能も自動車の利便性が高い郊外エリアへ拡散したために生じた。/他方で、中心市街地側に残る(ⅰ)交通要衝機能、(ⅱ)公的施設・サービス、(ⅲ)宿泊・飲食機能は、自家用車を持たない域外訪問者にとっては現在でも有用性が高い。/まずは、(ⅰ)域外訪問者数を最大化することで、中心市街地内の事業者の経営環境の回復を目指す、(ⅱ)中心市街地内の事業環境が回復すれば、新たな事業者参入も増えていく、(ⅲ)新たな事業者参入が増えれば、中心市街地内の賑わいが増し、地元住民も中心市街地へ訪れるようになる、そのような好循環を創りだす。(P218)
○ドイツ語圏の場合であれば、運輸連合という市町村の行政単位を超えた地域公共交通サービスを策定する機関によって、交通モードや事業者の区別なく、地域内の運賃が統合されており、乗り換え等で初乗り運賃をその都度支払うということはない。しかも、割引率の高い定期券を発売することで、住んでいる人が安価に移動できるよう工夫がなされている。(P285)
○一般的なノンネームシートでは地方の事業者の魅力や価値を広く伝えることができない。…relayでは、後継者募集情報を掲載するために取材やインタビューを行い…詳しい情報を掲載している。/事業を譲り受けたい人は、単なる経営情報だけでなく…その事業者にまつわるストーリーを知ったうえで、そこに共感した人が手を挙げることになる。…地域の方に信頼されている行政などが…入ってもらえば…そこで始まったのが、「relay the local」の取組である。(P360)

オールドニュータウンを活かす!☆

 筆者の三好庸隆氏は、市浦都市開発建築コンサルタンツでいくつかのニュータウンの整備計画に従事した後、独立し、現在は武庫川女子大で教授を務めている。この間、明舞団地の生コンペで最優秀賞を受賞するなど、もっぱら関西のニュータウンを中心に研究等をされている方である。
 こうした経験を踏まえ、前半の「第Ⅰ部 理想都市の系譜から日本のニュータウンへ」では、ハワードの田園都市から日本のニュータウン計画の概要や実態まで、丁寧に説明をしていく。これが単なる計画論ではなく、ニュータウン計画策定などの現場にいた経験を踏まえ、日本のニュータウン計画・設計の実態を描き出している点が興味深い。
 後半の「第Ⅱ部 日本のオールドニュータウンをどう考えるか」では、最初の第3章で、筆者自身がコンペで最優秀賞を受賞した明舞団地における再生の取組みと現状を丁寧に紹介する。その上で、第4章以降、オールドニュータウン全体を視野に、ニュータウンを「活かす!」ための提言を行う。最後の第6章では、Q&Aという形で、提言をベースに、具体的かつ詳細な説明を行う。非常に丁寧かつしっかりした内容に感心した。
 たとえば、一般市街地でも同様な課題を抱える中で、オールドニュータウンの再生に取り組む意義として、他の市街地のモデルとなる「トリガー地区」の役割があるのではないかと提案したり、住民が高齢化する中で「住民主体のまちづくり」をお題目にするのではなく、ニュータウンの再生は公的セクターが中心となり、住民や住民組織を支えることで初めて「住民が主人公のまちづくり」が実現するのだと説いたりする。非常に具体的であり、かつ正しい認識だ。
 私が住む高蔵寺ニュータウンでも、春日井市ニュータウン創生課を設置して、市が中心になって取り組んでいる。その方向性にはいろいろ意見もあるだろうが、市の姿勢としては正しいと感じる。国の「全国のニュータウンリスト」によれば、全国で2,022地区のニュータウンがあるそうだ。そしてその多くで同じような課題を抱えている。本書の提言は少なからず有効だ。各地で競い合いつつ、少しでも多くのニュータウンが再生し、「活かす!」ことができれば思う。

ニュータウンにおいては、将来の社会の変化に対応できるように予備的な用地(リザーブ用地)を確保する、と言う発想はなかなかとりにくかった。…暮らしにおける将来の見通しには不確定要素が多いにもかかわらず、初期計画段階で隅々まで計画しつくしてきたことは、計画しすぎ、即ち「オーバープランニング」であった。…公共用地としての小学校跡地は、全面売却せず、将来へのまちづくりに向けた貴重な用地として地方自治体が所有しつつ次の活用方法を模索するのが好ましい。(P145)
○高齢化率が既成市街地よりも一段と厳しく、暮らしの不活発、自治会活動のやりくりが難しいのが、オールドニュータウンの特徴であることを考えると、これからのまちづくりの担い手の主体として住民、住民組織に重きを置くのは実態として限界があるのではないだろうか。…リーダーとなりうる人が存在する場合はかなりラッキーなケースで、ラッキーなケースを一般論としていくわけにはいかないのが実態ではないだろうか。(P228)
○オールドニュータウンをその地方自治体、あるいは広くその生活圏が抱える「社会課題解決に向けたトリガー地区(引き金となる地区)」として取り上げて、社会課題解決方策の社会実装の場として、積極的・戦略的に位置づけてみてはどうだろうか。…オールドニュータウンに、配食サービスや在宅医療、子育て支援に取り組んでいると言ったような実態があれば、そのような「芽」を行政など公的セクターが公に評価して育てていく、という発想が重要である。(P255)
○オールドニュータウンを「再生させる」と言う概念から積極的に「活かす!」と言う概念への発想の転換を提言したい。…「-」から「±0」へ、ではなくて「-」の状況を逆手にとって活かし「+α」へ、である。…「活かす!」と言う言葉には…ニュータウンの特徴を活かして、日本の社会課題解決の一端を戦略的・計画的に担い、状況を良い方向に逆転・反転させて、ポジティブな状況をつくり出すと言う考えを込めたい。(P273)
○「住民主体のまちづくり」を言う場合、中身を丁寧にかつ具体的にイメージして語ることが大切と考えます。…公的セクターとのしっかりとした役割分担、公民連携の下で「住民主体のまちづくり」、即ち「住民が主人公のまちづくり」がやっと展開できるわけです。/公的セクターは活動できる住民や地域の持つ魅力を発見する眼を持ち、それらの住民や魅力を大切にしつつ発展させていくことが大切です。(P328)

都市を学ぶ人のためのキーワード事典

 饗庭伸の名前があったので思わず借りてしまったが、饗庭氏は「まえがき」と各扉ページの小文を書いているのみで、他は、24のテーマごとに若い研究者等が、そのテーマに関するキーワードを10程度選出し、それぞれ定義や関連事項等を書いている。24のテーマは、「人口減少」「都市再生」「都市のリノベーション」「公共施設再編」「パブリック・ライフ」「マーケット」「アートと都市」「住まい」「超高齢社会」「こどもとともに育つまち」「町並み・景観まちづくり」「ツーリズムと都市」「地方創生」「国土の計画」「グリーンインフラ」「緑地と農」「レジリエンス」「交通まちづくり」「エネルギー」「データとシミュレーション」「ワークショップ」「ガバナンス」「来たるべき都市」。
 「まえがき」で「全てを通して読むことは想定してないので、必要なキーワードを探し、その周辺のキーワードもあわせて読んでみるという形で使っていただきたい」と書かれているが、自分の専門領域のテーマについては物足りないし、あまり詳しくないテーマについては、より詳細なことはその専門書等に当たってみる必要がありそうだ。そこで念のため、全てを通して読んでみたが、それなりに楽しめる。ざっと頭に入れた上で、必要になったら、専門書を読むということになりそうだ。ということで、ざっと全て読んでみてもけっして損はない。
 以下には、私が関心を持った、でも詳しくは知らないキーワードについて引用しておいた。いつか役に立つこともあるだろう。

○DO方式: DO方式とは、公共施設の発注方式の1つで、基本計画・設計・運営を一括発注する方式だ。DesignとOperationの頭文字を取ってOD方式と呼ばれている。/これまでの公共発注は、基本計画・設計・工事・運営を別々に発注する「分離発注」が主流だった。…一括発注の仕組みとしては、工事も併せて発注するPFI方式があるが…参加できる企業が限られる。そこで、立地や事業規模から大手ゼネコンが参加する可能性が薄い場合などには、工事を切り離したDO方式が有効に働く場合がある。(P038)
○包括施設管理業務委託: 行政は、様々な部や課で構成されている。そして行政が所有する多くの公共施設を、それぞれが分担するように所管している。…包括管理では、行政が様々な施設管理業務を1つに束ねて、大手の管理会社や地元企業のコンソーシアムと契約する。この契約一本化による事務負担の低減効果は非常に大きく…また統轄事業者によって…統一的な考え方に基づく保全が適切に提供される…。また…対象となる施設の点検修繕等のデータが一元化される(P051)
再帰的超高齢社会: 高齢者自身が、いま暮らしている地域で、自分の人生とともに培ってきた社会資源・地域資源を活用し、身体的機能や社会的機能が低下しても自分らしく暮らし続けられるように、試行錯誤を通じて自ら環境を創りこんでいくまちづくりが重要である。…高齢者だけが安心できる仕組みをつくっても、ケアワークを担う若い世代が自分らしく質の高い暮らしを送れなければ、医療・介護サービスは供給されない。…再帰的超高齢社会においては、全世代を対象として、人生の不足のリスクに一喜一憂せず、なるべく自律的・快活に自分らしく暮らせるまちづくりが重要となる。(P116)
○時限的市街地: 時限的市街地とは、地域関係者が被災地にとどまって復興まちづくりに取り組むための暫定的な生活を支える場のことである。…東京都都市復興マニュアルでは、仮設市街地と呼ばれている。…被災住民自身が被災地内あるいは近傍に留まりながら、被災地の協働復興を目指していくための手段であり、応急仮設住宅に加えて店舗や作業所、小規模な医療施設、図書館などを建設し、生活再建のための準備拠点として使用させる。(P214)